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東京地方裁判所 平成7年(ワ)9744号 判決 1995年12月27日

原告

鈴木正也

被告

柊山浩幸

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、二二六万六六八〇円及びこれに対する平成六年九月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、三七三万三九〇〇円及びこれに対する平成六年九月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  事故の発生

(一) 日時 平成六年八月一一日午後四時三〇分ころ

(二) 場所 東京都港区新橋二丁目二〇番一五号新橋駅前交差点

(三) 加害車 被告柊山浩幸(以下「被告柊山」という。)の運転する普通乗用車

(四) 被害車 原告が所有し、運転する普通乗用車(初年度登録が平成五年一〇月二六日。乙一)

(五) 事故態様 被害車が本件交差点を信号表示に従つて通過した直後、加害車に追突された(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故の原因

本件事故は、被告柊山の前方不注視又は安全運転義務違反によつて発生したものである。

3  本件事故の結果

被害車は本件事故によつて前後部を大破したほか、原告は鞭打ち症となつた。原告は、被告車の修理費が高額になること等の理由で、修理を行うことなく破損した状態のまま被害車を下取りに出し、改めて新車を購入したところ、破損した状態の被害車の評価は七五万円であつた。なお、原告が購入した新車は、被害車と同一型式であつて、新車価格は三三五万円である(甲二、弁論の全趣旨)。

また、原告自身も頸椎捻挫の傷害を受け、一〇日間の休業を余儀無くされた。

二  争点

本件の争点は、原告の損害額の算定にある。

1  原告の主張

(一) 物損について

(1) 修理費用 一七五万一〇〇〇円

(2) 見積料 三万〇九〇〇円

(3) 評価損 六四万三〇〇〇円

(二) 人損について

(1) 休業損害(日額二万円の一〇日分) 二〇万円

(2) 治療費 一〇万九〇〇〇円

(3) 慰謝料 一〇〇万円

2  被告らの認否

(一) 物損の算定についてはいずれも否認する。

(二) 人損の算定のうち、休業損害については、本件事故前三か月の平均月収が五〇万円であり、休業期間が一〇日間であることから、一六万六六六六円が相当であるからこれを超える部分については否認し、治療費については二万八二九〇円の限度で認め、その余は否認し、慰謝料は争う。

第三判断

一  原告の損害額

1  物損について 一七六万二五〇〇円

(一) 修理費 一七〇万円

甲四によれば、被害車は本件事故によつて修理費一七五万一〇〇〇円(内消費税五万一〇〇〇円)、その見積りのため三万〇九〇〇円(内消費税九〇〇円)を要する損傷を被つたことが認められ、被害車が修理を受けるために必要な費用は計一七八万一九〇〇円と認められるが、他方、前記争いのない事実、甲二、弁論の全趣旨によれば、原告は、被害車を現実には修理しておらず、かつ破損した状態のまま被害車を第三者に下取りに出して新車を購入したこと、前記見積料を原告が出費したとまでは認められないことからすると、現実に修理するために必要な前記金額のうち、見積料に係る三万〇九〇〇円、修理費本体価格に対する消費税分五万一〇〇〇円は、原告にとつて未だ現実には発生していない損害というべきであり、本件における損害として認められるべき修理費は一七〇万円のみである。

(二) 評価損 六万二五〇〇円

(1) 原告は、評価損の発生根拠として、被害車を修理したとしても高速走行時にブレが出る等車両の歪みの発生が避けられない旨主張し、これに沿う証拠として甲六、一四を提出するが、そもそも原告は被害車を修理しないまま第三者に対して被害車を七五万円で下取りに出しており、右評価損を発生させるような具体的状況が果たしてあり得るのかどうか明確でなく、右主張に係る事実を直ちに認めることはできない。

(2)ア もつとも、前記修理費一七〇万円に前記下取り価格七五万円を加算した二四五万円が、本件事故発生時における被害車の現在価格を下回る場合には、前記下取価格が評価損を含めて査定された市場価格であると認められることに照らすと、二四五万円と前記現在価格との差額が評価損となるものと認められる。

イ 前記認定事実、弁論の全趣旨によれば、被害車の初年度登録が平成五年一〇月二六日であり本件事故発生時まで約九か月余りしか経過ていないこと、本件事故時、被害車の型式は最新のものであつたために中古車である被害車の客観的な市場価格が未だ形成されていなかつたこと、被害車の新車価格は三三五万円であることが認められる。

ウ 昭和四〇年大蔵省令第一五号(減価償却資産の耐用年数等に関する省令。以下単に「省令」という。)一条一項一号によれば、被害車と同じ型式の自家用乗用車の耐用年数は六年であり、また、一〇か月未満を経過した被害車の定率減価償却残存率は〇・七五であることが認められるから、本件事故時における被害車の残存価格は二五一万二五〇〇円であつたと認めるのが相当である。これに対し、原告は、定額法による計算式をとるべきである旨主張するが、定率法は、生産手段たる資産の生産性が最も高いと考えられる初年度の償却額がもつとも大きく、その後その生産性が低下するに従つて償却額も規則的に減少する(したがつて、当初は修繕費が少なくて済み、徐々に修繕費が余計にかかるようになる。)ことを念頭に置いた減価償却方法であり、走行を積み重ねることによつて機器類が摩耗していく自動車の減価償却方法としては最適なものとして評価することができるから、原告の右主張が採用できない。

エ 以上によると、本件事故時における被害車の残存価格が二五一万二五〇〇円であり、未修理のままの下取価格が七五万円、被害車の必要な修理費が一七〇万円で合計二四五万円であるから、その差額は六万二五〇〇円である。

2  人損について 四七万三三五八円

(一) 休業損害 一九万五八九〇円

前記争いのない事実、甲一〇、一五、乙二によれば、原告の平成五年の年収は七一五万円であること、原告が本件事故により休業を余儀無くされたのは一〇日間であること、原告はこの間の給与を受けていないこと、右休業により手がけていた仕事を十分に全うすることができず、月給のみならず賞与の査定にも大きなマイナス要素となつたことが認められ、以上の事実によれば、原告の休業損害を算定するに当たつては、本件事故直前の月収を基礎収入とするのは相当ではなく、少なくとも、本件事故の前年である平成五年の年収額を基礎とするのが相当である。

すると、以下のとおり、一九万五八九〇円となる。

七一五万円÷三六五×一〇=一九万五八九〇円

(二) 治療費 二万八二九〇円

原告が支出した治療費中二万八二九〇円については当事者間に争いがないが、平成七年一〇月九日以降に受診した共立習志野台病院等における治療費及びそれによる投薬費に係る八万〇七一〇円(甲一七の1ないし5)については、本件事故直後に行われた診療時(平成六年九月九日に中止。甲一三)から一年経過した後に治療に係るものであり、本件事故と右治療を要する症状との間に明確な相当因果関係を認めるに足りる証拠がない。

(三) 慰謝料 二八万円

本件事故によつて被つた傷害の内容や通院状況のほか、傷害により十分に仕事に従事することができず顧客らに多大な迷惑を掛けたことから本来の勤務評価を受けられなかつたことが窺えること、その結果、賞与も相当程度減額されたと推認される(甲一〇)が、前記休業損害には十分反映されたとは必ずしもいえないこと等、その他弁論に顕れた諸事情を総合的に勘案して、前記金額をもつて相当な慰謝料と認める。

二  結論

以上によれば、原告の損害額として認められるのは合計二二六万六六八〇円となる。

(裁判官 渡邉和義)

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